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シェフ・イン・レジデンス

シェフ・イン・レジデンス2022(前編)

旧大内邸を中心に八女市立花町で受け継がれてきた食文化を外の人と一緒に継承・発展させていきたい。そんな思いから、東京で「暮らしから循環を考える」をテーマにしているélabシェフの青柳陽子さんとオーナーの大山貴子さんに2022年8月と9月の2回にわたり立花に滞在してもらいました。前編では8月の滞在の様子をご紹介します。

8月22日(月)

2回にわたる滞在の初日。青柳さんと大山さん、そして0歳の大山さんのお子さんが到着後、まずは立花町の農家・古庄さんの畑へ向かいました。「道の駅たちばな」の取締役もつとめる修さんと、昨年から農業を手伝いはじめて後継者として働く息子の颯さん。 脱サラして農家になった古庄さんはトマト・里芋・葉物野菜など、さまざまな野菜を道の駅や直売所に販売しています。若い世代が農業を引き継ぎ、新しい農業のあり方や展開を考え始めているのに触れることができました。

その後は「道の駅たちばな」へ。制度が変わり、あと少しで、道の駅では加工品は厳しい製造管理のもと作られたものしか販売できなくなってしまうそうです。「道の駅たちばな」はいち早くそのための加工場を整備したものの、どんな加工品を作っていったらよいか悩んでいるとのことでした。加工品開発やレシピ共有の可能性などについて意見交換をおこないました。

16:00ごろに「農家民宿 大道谷の里」に到着!中島加代さん・真紀子さん母娘にお会いします。大道谷で作っている「くわの葉茶」の美味しさに一同感動。élabの二人はクラフトコーラやグルテンフリーのお菓子をお土産に持ってきてくれました。

その後は夕食の準備。加代さんの指示のもと、どこからともなくどんどん出てくる夏の旬の野菜を切ったり、盛り付けたり。どちらかがどちらかに 「教える」のではなく、「一緒に作る」という行為を通して距離が縮んでいったのが印象的でした。

8月23日(火)

ゴーヤやみかんをJAに全量出荷している農家の田中清司さんを訪問。JAのおかげで安定して農業が続けられる一方、曲がったり虫食いのものはすべて廃棄になってしまうこともお伺いしました。趣味で作っているという白ゴーヤや、割れてしまったみかんを分けていただきました。

大道谷の里に戻って、こんにゃく作りのワークショップに参加。茹でたてのこんにゃくは絶品!昔は灰汁は天然の木灰を使っていたが、非常に手間がかかる上、枝に農薬がついていることが懸念され、家庭以外では使用ができなくなってしまったそうです。今回のワークショップも「水酸化カルシウム」を利用したこんにゃく作りでした。

しかし、昔ながらの木灰でのこんにゃくは食感や味も違ったとのこと。élabの二人から、昔ながらのやり方もぜひやってみたいという声があがりました。

午後は若手農家の末継裕一郎さんを訪問。末継さんは今回の訪問農家さんの中では一番の若手。家業である米麦農家をメインにしながら、自宅横の畑で少量多品種で野菜を作り、道の駅や直売所などに販売しています。もともと野菜は家族で食べるために始めたため無農薬で栽培しています。

その後は、大道谷の里の中島健介さんにご案内いただき、中島家のキウイ畑へ。集落の山の方へ10分ほど登っていった急斜面沿いに、300-400本ものキウイの樹があります。収穫の際はは常に腰をかがめて作業をするそうです。キウイは虫に弱く、一部の畑はカメムシにやられて、ほぼ全滅とのこと。農業の厳しさも痛感させられました。

夕食は、élabの二人も加代さんの庭で採れた野菜を使い3品のお料理を準備。焼いたつるむささきの葉とピーマンの炒めあえ、ゴーヤとたまねぎとバジルのスープ、そしてゴーヤとしょうが、みかんの和え物。どれも塩と醤油を最低限使って、野菜の味を引き立てるもの。

農家の古庄さんと田中さんも参加され、ご自分の育てた野菜を食べていただきました。農家をしていても実際に食べる人の顔を見る機会は滅多にないとのこと。料理する人や食べる人の顔が見られたことは貴重な経験になったと言っていただきました。

8月24日(水)

旧大内邸で田中真木さんのお話をお伺いしました。田中真木さんは旧大内邸の修復に尽力し、「母の膳」という昼食を提供してきた方。小さい頃料理を作り始めた頃からのお話を伺いました。青柳さんが「élabでは野菜の皮も根っこも使うようにしており、使えない時は出汁を取るのに使う」という話をすると、真木さんもそんな若い人がいるのかと感心されていました。

午後は、旧大内邸のすぐ近くにある盛弘鍛冶工場に見学へ。盛弘鍛冶工場の包丁は注文してから届くまで8年かかると言われています。実は、青柳さんがもともと盛弘さんの包丁を使っており、お店も訪問もしたことがあるとのこと。工房見学では、鍛造をしている現場を見せてもらいました。

最後は、木桶を製造する松延工芸さんへ。桶は、おひつや寿司桶、漬物桶、お酒や醤油などの醸造桶など、食に深く関わっている道具。élabのふたりは工房ででる廃棄物であるかんなの削りかすに関心を示し、サンプルで持ち帰っていきました。(その後、élabからお菓子を発送する際の緩衝材として使われていました。)

普段、オーガニックファームで野菜作りを手伝っているというélabのふたりにとって、慣行農業を行う農家さんと話をしたことは新鮮な体験だったようです。また、真木さんとの対話はシェフの青柳さんにとってさまざまな学びがあったと言ってくれました。次回は約2週間後の訪問です。

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